金を取ってほしい博物館

 最近何もかも値上がりばかりである。

 もちろん、私がよく足を運ぶ美術館や博物館もチケット代が高くなってきている。都会の博物館の特別展など行くと、1,500円とか2,000円を超えるものもある。博物館だけの責任ではないし、これが学芸員さんたちを支える力になれば…と思うけど、まあ、もうちょっと気軽に見に行きたい…。

 ただ、あんまり安すぎるのもだんだん不安になってくる。企業博物館とかならまあ…わからなくもないが、公立の博物館だともっと心配になる。冗談でもこれが最期の輝きとか言わないよね…?になる。2023年の夏、そんな気分を味わってきました。

 帰省ラッシュで余計人が多い東京から東北新幹線に乗り、たどり着いたのは岩手県花巻市。お目当ては、宮澤賢治記念館で行われている特別展「銀河鉄道の夜」である。

 誰もが知っている不朽の名作「銀河鉄道の夜」に関する展示と、直筆原稿の公開。都会でやるなら入場料大人一枚1,500円で豪華俳優のオーディオガイドを付けて何かしらのコラボグッズとか出していそうだな…と考えてしまうが、良くも悪くも賢治記念館はそんなことしない。入場料350円で、我々を待っていてくれるのである。

 そんな破格の記念館に行く前に、まずはミニ花巻観光。羅須地人協会跡で「下ノ畑」と詩碑を見た後、賢治の弟の子孫にあたる方が経営しているカフェ・林風舎で糖分補給。そんな感じで宮澤賢治気分を上げて気持ちを落ち着かせた(?)ところで、いざお目当てへ。

 林風舎に近い花巻駅からバスに乗り、無事に記念館前へと到着。しかし運賃を払い終わると、運転手さんから一枚の紙を手渡された。前の人も貰っていたが、一体これは…?と思って見てみたら、「施設優待券」とあるではないか。

 なんでも、この券を見せると、宮澤賢治記念館を始めとする花巻市内のいくつかの施設が無料で入れるらしい(宮沢賢治記念館 入館料とアクセス|花巻市 (city.hanamaki.iwate.jp))。「なるほど、地元のバスを使ってほしいんだな」という気持ちと「え?」というシンプルな動揺が襲い掛かって来る。

 そんな動揺を抱えたまま記念館の受付で例の件を見せたらどうぞ~と優しく通してくれた。いや、詐欺でも困るけどさ…

 魅力的な常設展を今回ばかりはちょっと後回しにして、いざ特別展へ。特別展が行われている小さな部屋には「銀河鉄道の夜」について様々な点から開設されたパネル、昭和9~10年にかけて発刊された『宮澤賢治全集』などが展示されており、その奥に直筆の原稿が展示されていた。

 この展示は時期によって原稿が違うのだが、私が見た時はちょうどジョバンニが汽車に乗っていることに気づいたところからだった。賢治の独特な字によって、2人の最初で最後の銀河鉄道の旅は綴られて行く。書かれた文字に上から線を引いて新しい表現に変えたかと思えば、欄外まではみ出した加筆、5行まとめて消している箇所などあり、この作品に対する賢治の強い思いがひしひしと伝わって来る。そういった校正の跡も、消されてしまった文章たちも(頑張れば)見えるのが生原稿の良さだ。ちなみに原稿自体、「鉛筆による下書き」「BBインクで書かれた一部再清書」などというように、研究者たちによって細かく分析されているらしい。ひえ~…

 そんな感じでしみじみ見ている時に驚いたのが、この展示室内も写真撮影OKということである。つまり直筆原稿も写真撮影可能なのだ。直筆原稿だけど!?とビビりまくるが、みんな普通に写真を撮っている。もちろん私も写真を撮った。直筆原稿だけど?

 ついでにパネルなども撮って勉強になるな~~とか思っていたところへ、「パンフレットを受付で無料配布しています」という展示ケースの間のポップが目に入る。無料配布…?後に同行者が貰っていたので見せてもらったが、背表紙はないがしっかりとした紙にフルカラーでほとんどのパネルの内容が印刷されている。実質的な図録だ。無料配布…?

 宮澤賢治記念館を堪能し尽くした、というか「大丈夫?」というぐらい見た後は近くのレストラン・山猫軒で昼飯を食べ、宮澤賢治イーハトーブ館で行われていたますむらひろし「『銀河鉄道の夜 四次稿編』複製原画展」へ。絵が綺麗でとても勉強になったが入場無料。申し訳程度に、売店「猫のじむしょ」でグッズを買いました。

 そんなこんなで、日帰り花巻旅行はこれにて終了。宮澤賢治巡りは非常に楽しかったし、直筆の原稿が見れたのは大変貴重な機会だったのだが、「なんであんな大盤振る舞いだったんだろう…」という気持ちが強くなってしまった。人間って不思議だ。出身校の花巻東高校がある縁で、大谷選手から「これ、賢治先生のために使ってください(地元の人はみな賢治先生と呼ぶ)(隣の奥州市出身の大谷翔平が言うのかは不明)。」と毎年めちゃくちゃもらっているのだろうか。部外者すぎてその辺りはよくわからないが、こういった博物館などにお金を使ってくれるのはありがたいと思う。  花巻には「賢治まちづくり課」があるように、市を挙げて賢治を推してくれているのがひしひしと伝わった旅だった。「宮澤賢治が好き!」という人は、ぜひとも一度行くべきである。

 

 ちなみに例の展示室に「直筆原稿などの資料の修復・保存作業を行ってます、とっても大事な作業です(意訳)」と書かれたパネルがあり、「これはまさか『皆様のお力が必要です』『お金足りないのでクラウドファンディングします』とか言うんじゃ…」とか思って見てたら「これからも頑張ります!」という感じで終わっていた。これから、つらくなったら、いつでも言っていいからね……